HOME > 世遊名人

世遊名人対談 第30回 谷口仁史氏 谷口仁史氏写真

■プロフィール

特定非営利活動法人「NPOスチューデント・サポート・フェイス」代表理事 谷口仁史
佐賀若者サポートステーション総括コーディネーター
佐賀県子ども・若者総合相談センター長
平成22年度子ども若者育成・子育て支援功労者表彰「内閣総理大臣表彰」受賞

1976年生まれ 佐賀県武雄市出身。佐賀大学文化教育部卒業。在学中からボランティアで不登校、ニートへのアウトリーチ(=訪問支援)に取り組む。卒業後、大学教授ら有志を募り「NPO スチューデント・サポート・フェイス(略称 S.S.F. )」を設立。平成 24 年 3月末日現在、委託事業を含む 8万5千件を超える相談活動、約7,000件のアウトリーチに携わった他、 関係機関とのネットワーク構築や「職親制度」等社会的受け皿創出、執筆講演活動など多彩な活動を通じて、佐賀県版「コネクションズ・サービス」(社会的孤立排除・生まない支援体制)の確立を目指している。
近年はその実績が認められ教育・労働・労働分野を中心に各種公的委員を歴任し、政府系では、 「社会保障審議会特別部会」、「子ども・若者育成支援推進点検・評価会議」等で委員を務める他、アウトリーチに関しては、「若年者向けキャリア・コンサルティグ研究会」や「高校中退者等アウトリーチワキングループ」等で 委員を務めるなど、子ども・若者支援の全国的な取組の推進にも貢献している。

 

(聴き手:ビズデザイン株式会社 シニアリサーチャー 菅 裕子)

(掲載日:2013/9/3)

 

◆アウトリーチの巨匠に聞く 「子ども・若者支援 アウトリーチ(=訪問支援)の有効性とは?」

菅: 不登校・ニート・ひきこもりなどの子ども・若者に対して、谷口さんの団体SSF(スチューデント・サポート・フェイス)ではアウトリーチ(=訪問支援)という手法を得意として支援を進めておられますが、それはどのようなお考えからですか。

谷口: 不登校やひきこもり支援については、これまでも国や地方自治体で取り組んできましたが、方法論に一部不備があったと考えています。具体的には施設型支援に偏っていたということです。施設に来る人にしか対応していませんから、ひきこもって出てこられない若者にアプローチできていません。またいじめや虐待など、相談室だけでは対応できない問題がたくさんあります。ならば相談室だけで解決しようとするのではなくて直接現場に足を運んでアプローチしていくことが必要ですし、学校教育や精神保健といった分野ごとの縦割りを見直して、協働して課題の解決に取り組まなくてはなりません。また子どもたちが困難をかかえて立ち直っていくまでには、複数年継続して見守る必要があります。学校に通っている間は、つながりがあるため動向を把握しケアすることはできますが、中学校卒業・高校中退してしまえばもうその先は、つながりがなくなり自己責任に切り替えられてしまいます。就学期の年代や20代~30代の若者といったライフステージごとの行政の縦割りを超えてケアすることは当然必要です。
これまで行政は施設型支援を中心に支援策を拡充して成果を上げても実態ではひきこもりも不登校も減っていないわけですから、問題の比較的軽い上澄みにしか支援が行き届いていない可能性も否定できません。それでは税金の無駄になる。本当に支援の必要な人に手を差し伸べて、効果のある支援をするためにはアウトリーチ(訪問支援)は必須だと思います。

菅:アウトリーチの必要性というのは聞けば聞くほど理解できます。 昨年度、弊社で町田市での「ひきこもりに関する市民意識調査」を受託致しましたが、そのような子ども・若者に対する支援は8割~9割の人が必要と答えました。 ただ一部厳しい意見もありました。私たちの最初の仮説では、「そんなことは自己責任だと」根性論的なことを言うのは歳の上の方の人と思っていたのですが、結果は、同じ世代、特に20代30代でおそらく自分もかなりぎりぎりで頑張っている人が、「支援は必要かもしれないけど、もっと自分で頑張れ」と言っている、事が分かりました。それについてどのようにお考えですか。


谷口: そういう人たちはなぜ彼らがそういう状況に陥ったか、背景、実情が見えていないと思います。例えばニートになってしまう人たちの半数近くが、いじめの経験があります。そこでトラウマをかかえてしまって、必要なケアされずにそのままひきこもりに移行してしまうわけです。ある意味被害者のまま孤立し、ますます不利な立場に陥っていくという実態があります。労働市場という観点から見ると、若年層の求人が厳しい中で、頑張っても報われない世界が現実目の前に広がっている。必死に就職活動を頑張っている彼らからみれば、一見何も努力していないように見える引きこもり青年にネガティブな感情を抱くのも仕方がない面もあります。でも実際そうなった人のきっかけや経緯、家庭環境や社会的背景をきちんと知ることができればそういった感情も変わるはずです。

アウトリーチ(訪問支援)では、そういった背景に直接関わることにより、確実に状態を変えていきます。その子の置かれた環境にまでしっかりアプローチして、一緒に問題解決をしていくことを実践しています。

そうしなければ結局いくら本人の訓練をしても、疲弊して鬱になる、最悪の場合、自ら命を絶ってしまう、彼らはそれだけ追い込まれています。話を聞くだけの相談支援から彼らが抱える問題を共に解決する、場合によっては所属する環境を改善する、そういった直接的な支援に比重を移していく必要があります。

菅: 環境を変えるということは、家庭環境とか学校環境とか、その子が置かれている環境のことですね。

谷口: そうです。 ひきこもり状態が長期化、深刻化するケースでは特に、その子が所属する家庭や学校、職場等環境に対するアプローチは重要です。

 

谷口仁史氏 写真2

アウトリーチ(=訪問支援)を広めるために、「日本アウトリーチ協会」設立

菅: 家庭訪問すれば、その子の生活実態が見えてきやすいということですね。そこのことは支援者のみなさんの間では概ね理解されているように思います。また実際にひきこもりを抱えて支援を必要としている家庭においても訪問支援を希望されることが多いと思うのですが、なかなか実現が難しいようですね。家庭訪問をやったが為にかえってダメになった例を聞いて、アウトリーチに対して慎重になっている意見をよく聞きます。少し認識を変えて積極的に取り組んでいくにはどのように進めればうまくいくとお考えですか。

谷口: アウトリーチというのは、まだ確立された理論がありません。確立されてこなかった理由の一つとして、ただでさえ心理的に追い込まれている子供たちをさらに追い込んでしまうかもしれない、というリスクがあります。実はそこを専門家がしっかり検証して行くことを、今まで放置していたわけです。そこで今こそ理論の確立が必要と考えています。地域若者サポートステーション事業等の展開によってアウトリーチの取組も全国で進んできています。そのアウトリーチの、様々な成功例、失敗例を元に複数分野の専門職によって検証し、理論を組み立てる取り組みをしています。こうあるべきという方向性は見えてきている段階ですので、それを全国の団体と共に検証し発展的に理論として体系化したいと考えています。
今これというものができれば、心理分野、教育分野、支援分野の改革にもなるはずです。今までの施設型支援を受けていた人の中にも家庭や学校における問題をしっかりアプローチしてあげるとより早く回復できた人もいたと思います。だったらアウトリーチのノウハウをもって、虐待があるのならその状況、環境を変えてあげることによって、抗うつ薬がなくても生活できる、そういう状態ができるわけです。

菅: アウトリーチの技術を実践していくのは理論の確立だけではまだ難しいように感じています。支援者はどのようにトレーニングを積んでいけば良いのでしょうか。


谷口:まずは組織で動くことです。一人では失敗かどうかの判断をできない可能性があります。つまり複数人の組織の中でアウトリーチを展開していく、それが大前提です。ノウハウが全くない団体であれば、内閣府アウトリーチ研修のように実地訓練を伴う研修の機会がありますので、そういった研修をまず受けてノウハウを獲得するのが先決です。何故、実地訓練を伴う必要があるかというと、相談室対応よりも複雑な場面で展開される支援ですのでマニュアルなど文字で伝えるには一定の限界があります。我々の場合、座学研修として、より具体的な場面設定を基に模擬実践ができるよう映像化するなど工夫していますが、それもまた限界があります。そうなるとやはり専門的ノウハウを持った団体の下で経験を積める、実地訓練、OJTの場を確保する必要があります。コーディネーターレベルのノウハウはそう簡単に身につきませんが、実地訓練後も継続的にスーパーバイズすることで効果を発揮します。

こういった観点から全国組織として「日本アウトリーチ協会」というものを設立しました。今年認証を受け、本格的に9月からスタートします。一定の倫理規定に乗っ取って、アウトリーチ活動に取り組んでいる団体に対してノウハウを提供します。

谷口仁史 写真3

また、地域にアウトリーチの支援団体がない場合、その地域の有志に対して人材育成支援等を行い、そこの地域に支援団体を立ち上げるお手伝いもできればと考えています。
このように人材育成に関しても行政側、民間側、双方の取組を進めつつ、研究会等を通じて検証の場を設け協働する。近い将来、官民協働の人材育成システムができればと思っています。

菅: 行政と民間の協力した動きも徐々に起こっている所もありますが、現状では探りながらの部分が大きいと感じています。今の状態だと技術の蓄積がなかなか難しい感じがしています。

谷口: 行政側が相談員として臨時職員を雇って対応する場合が多いですが、それではノウハウの蓄積をするのが難しいですね。アウトリーチでも同様にNPO等に委託をする、もしくは正規職員を採用して、アウトリーチのノウハウの蓄積を行うのが良いと思います。そしてそういった専門性を持った人材の育成は学んだノウハウの検証のためにも行政主導で行うべきと思います。

 

◆企業のメンタルヘルス対策に若者支援団体の力を活用する!

菅: 少々話は変わりますが、この「世遊名人」対談は企業の方、CSRや社会貢献活動のご担当者も見ておられますが、それを踏まえて谷口さんから伝えたいことはありますか。

谷口: 元気な子どもに対しての企業の支援活動は多くありますが、ニートやひきこもりなど困難を抱える若者に対する企業の支援は少ないと感じています。比較的対象が広い子ども・若者育成支援推進法に基づく協議会に協力してもらうなど何か企業の方にも参加を促したいと思います。
CSRや社会貢献活動による企業価値向上につながる効果はなかなか出てこないと言われていますが、そういった部分にあえて挑戦するのが社会的な意義があるのではないかと伝えたいです。若者全体に対してアプローチするべきだと思っています。企業がCSRや社会貢献の本当の意味を見出すには、負のイメージのある若者支援のCSR活動も増やしてほしいと思います。
また最近は企業で職場のメンタルヘルスの話もしています。 職場のメンタルヘルスには実は職場だけの問題ではなく、家庭の問題が関係している場合もあります。職場の問題を解消するだけでなく、家庭の問題にも目を向け問題を減らすことで職場のストレスを減らすことができます。

産業界でもアウトリーチは大事と思います。鬱になる人も増えています。そういう人たちに対して本当の悩みの原因を解決する必要があります。私たちも学生だけでなく、職場を辞めたニートにアプローチする場合がありますが、そう考えると社会人へのアウトリーチも可能です。

また、離職率を下げるためには、まずは職場の悩みを第三者に相談していく仕組みを持つことが有効です。産業医の先生が第三者として話を聞くことに慣れていないケースも多いと感じています。そういった場合、地域のNPOが入っていくのが良いのではないかと思います。日常的なストレス解消や、愚痴の聞き役など、そういったものを地域の団体が提携して行うのも良いと思います。

谷口仁史氏と菅裕子の写真

菅: 企業向けにもアウトリーチや愚痴の聞き役というのは初めて聞き、斬新な感じがしました。また、企業にとっても子ども・若者は、近い将来の働き手や消費者として貴重なステークホルダーと言えます。その社会課題に対して、積極的にアプローチしてもらいたいと改めて感じました。谷口さんが子ども・若者問題の本質に迫るためにアウトリーチという手法を軸として幅広く考えておられることが分かりました。アウトリーチの支援者が増え、一人でも多くの困難を抱える若者が自立できることを願います。
本日はありがとうございました。

 

 

 

※ご講演等のお問い合わせ、谷口仁史氏へのコンタクトは、弊社までご連絡下さい。

 

 

 

  

  

スタッフ・ブログ 世遊綽々 ソーシャルアクション 社会の潮目
世遊名人対談