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世遊名人対談 第26回 岡本佳美氏 石井佳美氏写真

■プロフィール

岡本 佳美 氏  株式会社アム 代表取締役

 1973年生まれ。大学卒業後、広告会社に4年間勤務し、26歳でフリーランスのマーケティングプランナーとして独立。独身時代、仕事と育児の両立の難しさに問題意識を持ち、個人的に1年間のフィールドワークを行う。2005年、病児保育問題を事業によって解決するNPO法人フローレンスの創業に参画。本業との二足のわらじでNPOのマネジメント業務に関わり手腕を発揮。2008年、フローレンスの副代表から理事になり、本業であるコンサルタントの仕事を主軸に戻す。同時に、それまでの屋号を法人化し、株式会社アムを設立。2011年4月に長女を出産し、一児の母。

 

(聴き手:ビズデザイン株式会社 シニアリサーチャー 菅 裕子)

(掲載日:2013/6/3)

 

◆NPO法人は、「Non profit」ではなく、「Not for profit」!

(菅) NPO法人フローレンスの創業期に大きな役割を果たされた岡本さんですが、元々お知り合いではなかったのですよね。代表の駒崎さんとはどのように出会われたのですか。

(岡本) 出会いは偶然でした。仕事のパートナーだったある女性が出産から仕事に復帰したところ、仕事と子育ての両立に非常に苦労している現実を目の当たりにしました。それを他人事とは思えず、「仕事と子育ての両立」について「大人の自由研究」と称してリサーチを始めました。その時は既にフリーランスとして独立していました。フリーランスは会社員と違って制度に守られていないので、産休、育休がありません。もし自分が妊娠したら、その瞬間から仕事との両立の困難さに途方に暮れるだろうと容易に想像できました。しかしワーキングマザーは世の中にたくさんいるはずですから、自分が知らないだけで上手くやっている人もいるはず。そんな思いからフィールドワークをしていました。自身のブログに仕事と子育てに関する興味関心を書くと、駒崎さんを知る人が彼を紹介してくれて食事会をセッティングしてくれたのが始まりです。

 それはフィールドワークを開始して1年ほど経過した頃でした。その頃には産育休制度の2年間がない反面、働き方に自由がきくフリーランスの方が仕事との両立がしやすい側面があることがわかり、自分の問題はある程度解決していました。一方で、市場開拓を業務とするマーケティングに携わるマーケッターの視点として、子育て支援の分野が未開拓な市場だと感じていて、「仕事と子育ての両立」というテーマは、個人的な問題意識からマーケッターとしての興味関心に移っていました。

 妊娠もしていない女性が産後について調査することは異端すぎて、フィールドワークでインタビューなどをすると面白がられました。一方で自分が「子育て支援市場」で何かアクションを起こすとすれば、自分自身が子どもを産み育てた経験の後になると思っていました。市場の可能性を感じつつも、「実際に産んでみないとわからない」という声が大きかったからです。そんな時に駒崎さんと出会い、彼は男性で、しかも独身でしたが、既に動き出していました。当事者でなくても取り組んでいる彼の姿に、かなり背中を押されましたね。出会ったその場で意気投合して、仲間に入れてもらうことになりました。

(菅) 情報発信が人を繋げ、大きな仕事を生んだ好事例ですね。自由研究でフィールドワークをされたり、興味のテーマが一致していたとは言え、マーケッターのお仕事からNPO立ち上げという全く違う分野へチャレンジされたり、その行動力に脱帽します。

(岡本) フィールドワークが一巡していてタイミングがよかったこともありますが、一番大きかったことは、駒崎さんが事業型NPOをわかりやすく説明してくれて、自分がやるべき仕事を理解できたことです。私は「特定非営利活動(NPO)法人」というものが理解できていなかったので、「なぜNPOにしたのですか?」と尋ねました。彼は、「非営利活動法人と訳されたことが間違いの根源です。目的は社会問題の解決であり、そのために必要な手段として利益は得る。Non profitではなく、Not for profitなんです」と説明してくれました。その説明が私にはとてもわかりやすく、ストンと腹に落ちました。NPOは、営利の権化ともいえるマーケティングを専門としている私は一生関わることはないだろうと思っていた領域でしたが、彼の説明を聞いて経営資源の限られるNPOこそ、より小さいコストで成果を出すために、戦略的思考と戦略的行動が必要だと思いました。無縁どころか、やるべきことが山ほどあるな、と。

岡本佳美氏と菅裕子 写真

 

◆2人のコラボレーションが、フローレンス成功の秘訣

(菅) フローレンスは、先日も「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」を受賞され、日本を代表する事業型NPO、代表の駒崎さんは社会起業家として共に大変有名ですが、その立役者としてブランド・マネジメントがご専門の岡本さんのご活躍があったことは想像に難くありません。フローレンスにおいて岡本さんはどのようなお仕事をされたのですか。

(岡本) 事業型NPOは、社会問題を解決するエキスパートだと思っています。フローレンスにとってまず解決すべき社会問題は、病児保育でした。フローレンスが成功した理由は、病児保育において最も重要な当日予約に対応できるビジネスモデルを作ったこと、利用者が支払い可能な金額で、ニーズに応えることができる仕組みを構築できたこと、そこに集約されています。駒崎さんはビジョンとソリューションを持っていました。明らかなニーズがあって、ニーズに応えるソリューションを駒崎さんが考え、私を含めて創業当時のスタッフが形にしました。私は当初、病児保育サービスの利用者向けのマーケティングが担当だったのですが、結果的には経営全体に関わることになり、ブランド・マネジメントもその仕事のうちのひとつでした。フローレンスという事業体の骨格を整理し、その骨格を整理し、駒崎さんにスピーカーとして話をしてもらいました。また事業として落とし込めるように現場のオペレーションを固めていきました。私が入ったことで、マネジメントとオペレーションの分担ができました。得意と不得意、必要な機能をお互いが得意分野として持っていました。2人の相性が良かったと言えます。また当時は、ビジネスセクター出身でNPOの立ち上げに関わった人があまりいなかったので、そのことも注目されました。

(菅) お二人が全く違うタイプで、お互いを補い合う役割が上手く機能したのですね。岡本さんが取り組まれたブランド・マネジメントとはどのような事でしょうか。

(岡本) ブランド・マネジメントとは、「経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略、広報戦略、デザインなどの最終的な表現」を一貫して支えることだと考えています。言い換えればブランド・マネジメントは組織の体幹、インナーマッスルを探り当てることです。体幹には4つの要素、ビジョン・ミッション「未来」、ソリューション「過去」、ニーズ「現在」、それらの交点にある「提供価値」、があります。ブランド・マネジメントでは、いつもこの4つの明らかにすることをしています。

岡本佳美氏 写真3

 駒崎さんには既に経営戦略の青写真がありました。だからブランド・マネジメントが役に立ったといえます。ブランド・マネジメント主導で経営戦略を作り上げることは難しく、それは経営者の仕事です。私にはCOO的なポジションが合っていると思います。

(菅) 企業で実施するのと具体的にどのような違いがありましたか。

(岡本) ブランドには、企業ブランドと事業ブランドがあります。 元々は、企業においては事業ブランドの仕事をしていましたが、NPOの立ち上げにおいては企業ブランドの考え方が必要でした。そして対外的と対社内的なブランド・マネジメントの両方が必要でした。NPOであれ、企業とマーケティングの原理元素は同じで、使える戦術は同じですが、広告代理店に発注するのは大手企業でありNPOとは使える経営資源が圧倒的に違います。フローレンスでは予算0円、これまでの発想で思いついた戦術は何もできませんでした。しかも人材は私とインターン生のみ。そんな中、使える打ち手を探して、実行するのが面白いと感じました。

 

 

◆発信をシンプルに。「1ブランド1メッセージ」の法則

(岡本) フローレンスは当時、「無名、無理解、意味不明」の三重苦でした。フローレンスは無名で、病児保育に対しては無理解、事業型NPOに至っては意味不明ということです(笑)。3つの事を一度に説明してしまっては分からなくなってしまいます。また「病気の子どもを預けるなんて」という社会の空気もありました。正しい認知と正しい理解のためには発信をシンプルにすることが鉄則です。そこで次の関係性をシンプルに伝えることを徹底しました。

 『フローレンス=病児保育』

 『社会事業家=駒崎』

 そして少ない資源で認知・理解を広げていくには、他人の力をどう使わせてもらうかを考えます。具体的には、マスメディアやSNSなどのメディアやクチコミですが、そういった本来フローレンスの「外の人」である「他力」に、まるで「中の人」のように情報伝達のハブになってもらうには「1ブランド1メッセージ」のシンプルなメッセージが不可欠です。

(菅) ブランディングとは共通認識をみんなに持ってもらうということと言えますね。また最低限を記憶に残してもらうために多くのものをそぎ落とし集約していかれたということですね。そのそぎ落とすために戦略的に何か捨てたものはありますか。

(岡本) 具体的な戦略としては、世間で大きく取り上げられる待機児童の問題を一旦捨て、病児保育を柱としました。マニアックな問題にフォーカスを当てて、その問題をメジャーにするという方法です。フローレンスが目指す社会は、簡単にいうと「仕事と育児の両立が当たり前の社会」ですが、一般の方に「それならまず待機児童でしょ?」と疑問を持たれないように、病児保育が「無名の大問題」であり、その問題に真っ先に取り組むことに納得感のあるストーリーを作りました。「75%のワーキングマザーが、仕事と育児の両立でもっとも困るのは病児保育と答える」というものです。

 病児保育の事業が確立したところで、待機児童問題に取り組み、「おうち保育園」を事業として2008年に開始しました。

岡本佳美氏と菅裕子、友田景の写真

(菅) 身の丈に合ったところから始め、徐々に事業拡大して行かれている、低予算で事業を立ち上げる理想的なケースだと思います。病児保育は保育園に入ることが出来たからこその悩みですが、待機児童の問題は保育園に入る以前の問題で、女性が働くこと自体を阻む当事者にとっては大変な問題です。この問題への取り組みは多くの人の子育てに対する不安を軽減する心強いものだと思います。

 岡本さんご自身は現在フローレンスから少し離れ、ご自身の会社を設立されてご活躍されていますが、NPOでの活動はどのように影響を与えましたか。

(岡本) 最近は、「フローレンスで実施したことをやって欲しい」とオーダーされることが多くなっています。事業型NPOは、既存のビジネスとは前提が異なる場合が多いので、ある意味で非常に先進的なチャレンジをしているのです。その実践で学んだことが民間企業に輸出できるとわかりました。以前は、大手代理店からの下請け的なポジションで商品・サービスのマーケティングコミュニケーション戦略をご提案するプロジェクトがほとんどでしたが、いまは、経営戦略と足並みを揃えて実施するコーポレート・ブランドについてご相談をいただくことが多くなりました。フローレンスでの経験が、図らずも自身のキャリアの強みとなり、仕事の幅が広がりました。

(菅) フローレンスがビジョンとして掲げる「子育てと仕事、そして自己実現のすべてに、だれもが挑戦できるしなやかで躍動的な社会」を岡本さんご自身が先頭切って本当にしなやかで躍動的に実践されている、そんな印象をもちました。

 本日はありがとうございました。

 

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