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世遊名人対談 第21回 中川美和子氏 中川美和子氏写真

■プロフィール

中川 美和子 氏  NPO法人和の環 理事長

 横浜を中心とした神奈川県で法人後見を推進するNPO法人和の環理事長。NPO法人グローバルキャンパス理事。生命保険会社に勤務しながら、社会の中で実際に起きつつある家族の変化などの問題に気づいたことが、成年後見制度に関心を持つきっかけになった。
 

NPO法人和の環  http://www.wanowa-shiminkouken.org/

 

(聴き手:ビズデザイン株式会社 シニアリサーチャー 菅 裕子)

(掲載日:2012/7/31)

 

◆成年後見制度とは

(菅) 中川さんは「わが町で市民後見ひろげ隊」ということでNPO法人「和の環」の代表を務めておられますが、まずは「成年後見制度」について教えてください。

(中川) 2000年4月に介護保険制度がスタートする時に、同時に「成年後見制度」も法制化されました。介護保険制度とそれまでの制度との根本的な考え方の違いは、「措置から契約」に変わったことです。つまり、介護は、契約によってサービスを選ぶことができるようになったのです。そのため、介護サービスを受ける人は契約をしなければなりませんが、認知症の方や、知的および精神に障害があって判断能力が十分でないため契約ができない方には、本人に代わって法律行為をする人が必要になります。それを後見人といいます。

 2000年以前は禁治産制度といって、財産管理ができない人に代わって財産を管理する制度と法はありましたが、人権擁護の観点から問題が指摘されていました。財産管理と身上監護が成年後見制度の二本柱です。買い物や病院に連れて行くなどの事実行為ではなく、金銭管理や契約行為が後見人の主な仕事になります。諸外国で先行するのはドイツの世話法、イギリスの持続的代理権授与法などで、それらを参考にして日本の成年後見制度作られたと聞いています。

 現在介護保険利用者は約450万人(平成21年)ですが、成年後見制度の利用者は平成22年で20万人弱です。それでも3年前に学んだときは12万人と言われていましたので最近急速に増えていると言ってよいでしょう。

(菅) 最近利用者が増えたのはなぜですか。

(中川) 銀行などの金融機関で後見人を立てることを要求されるなど、成年後見制度利用を勧められるケースが増えるにつれて、広く社会で認知されるようになりました。東大・筑波大共同で市民後見人養成講座が開催されたことも、一つのきっかけとなったかもしれません。私達「和の環」も東大の講座で集まったメンバーによるグループです。介護保険の利用者に比べて、あまりにも成年後見制度の利用者が少ないことに危惧を覚えた研究者がいらしたのだと思います。 また本年4月に老人福祉法の改正があり、市民後見人養成の努力義務が自治体に課せられたことも一つの契機だと思われます。

中川美和子氏写真2

 これまでは後見の担い手は家族が中心でした。法制のスタート時は親族が9割、その他1割は財産がある人が専門職である弁護士や司法書士などに依頼していました。しかし、家族の在り方も変わってきていますし、実際に一人暮らしの方も増えてきて、後見の担い手として家族に依存できなくなるケースも急増しているのです。現在では、親族後見は6割以下です。

 成年後見には、すでに判断能力が不十分になった方に対する「法定後見」と、本人の判断能力が十分なうちに候補者と契約をしておく「任意後見」とがあります。法定後見は、基本的には4親等以内の親族が家庭裁判所に申立てをしますが、身寄りの無い人は行政の長が申し立てすることができます。現状では申し立てをしたくても身寄りがなく、できない人が増えています。その意味から、第三者後見人の必要性が浮かび上がってきました。

(菅) すごく単純に言うと、障害や認知症で判断能力が無い人が老人ホームに入ったりするときに必要な制度なのですね。

(中川) 基本的に、その方がその方らしく生きるために為す契約行為を後見人は行いますが、同意権、取消権、代理権などを、その方の類型に従って行使することになります。類型とは、法定後見の場合にその方の判断能力の程度によって、一番軽い補助、中程度の保佐、重い後見に分けて、後見人ができることとできないことを規定しています。任意後見の場合は、その方の判断能力が十分にあるときにする契約なので、その方が望むサービスを公正証書で明記し、後見人も自分で選べます。

(菅) 和の環では実際に後見人になることがあるのですか。

中川美和子氏写真3

(中川) ある事例を紹介します。ある一人暮らしのご老人はほとんど身寄りがなく、遠くの親戚が心配して時々電話で連絡を取っていました。しかしある時様子がおかしい事に気が付き、その方が住む市の市役所に様子を見てほしいと連絡しました。市から老人宅に向かったところ、不潔に散らかった部屋の片隅にうずくまって、認知症の様子で発見されました。病院へ行こうと説得しても頑なに拒否します。根気よく話を続けた所、お金がほとんど無いことが分かりました。銀行口座からはお金が引き出されており、更に誰かに騙し取られたらしいとわかりました。随分脅かされていたらしく、発見された時は相当おびえていました。

 市から連絡を受けたケアマネージャーが病院に連れて行き、認知症の診断が下りました。一人ぐらしは無理とのことで、一時居宅介護施設に入所しましたが、入所には期限がありその後グループホームへ移ることになりました。その契約は後見人がしなければならないため、その段階で和の環へ連絡がありました。和の環では、その方の後見人になるために家庭裁判所へ申し立ての支援を行い、現在審判待ちの状態です。和の環はまだ後見人にはなっていないのですが、現時点でできることを精一杯支援しています。今後の役割としてはグループホームで状態が悪くなれば、病院か、特別養護老人ホームへの入所を判断するのも、後見人の仕事になります。

 

◆悪の温床を許さない!

(菅) 認知症の老人のお金を騙し取っているというのは許せませんね。

(中川) 騙されたというケース以外でも、子が親の年金を使う、自分勝手に親の資産を使い込む「親族相盗」という事例も多発し、問題となりました。一昨年あたりには、親が亡くなったのに年金をもらい続けていたケースが判明しました。しかし一方では、子どもがいない、身寄りのない老人も増えています。

(菅) 本来この制度が必要なのに利用していない人はどうしているのですか。

(中川) うやむやな状態ですね。周りが気付かないうちに認知症になり、金銭的な詐欺被害にあわれる方もいます。だまし取られたお金が、悪い人に使われていると思うと許せない気持ちでいっぱいになります。それを防ぐには、普段の状態でお付き合いできる人がいることがいかに大切か、ということになります。

(菅) そういった認知症の人を狙い撃ちする詐欺組織とかありそうですね。悪の温床になるということは許せません。早く広めるべき制度ですね。後見人を市民にお願いしようとするのは国の動きなのですか。

(中川) 滞在的なニーズはあるので、厚生労働省は老人福祉法第32条の改正を行いました。市町村などの自治体が市民後見人の養成に努めることになっています。これを受けて横浜市では市民後見を広げるために研修事業を今秋から実施しようとしています。研修の後、後見人名簿に名前が搭載され、家庭裁判所が選任します。

(菅) 潜在的なニーズとはどの程度考えられるのでしょうか。

(中川) 全国で認知症高齢者約200万人 知的障害者50万人、精神障害者が300万人いると言われています。知的障害、精神障害を持っている方は現時点では親が面倒を見ていても、親亡き後のことを非常に心配されています。そのような人の兄弟も一生付き合っていくことに不安に感じておられます。

 また高齢者については現在日本の高齢化率は全国民のほぼ25%、そのうちの6割近くは、65歳以上の夫婦だけかあるいはひとり世帯です。このような状態ですから、これまでの成年後見の担い手である家族、弁護士、司法書士だけでは対応できなくなっており、地域の人達で支えあうという必要があります。

中川美和子と菅裕子

(菅) 現在の利用者が20万人とすれば、全然足りていないですね。更に最近ひきこもりもかなり増えていると聞きますから、そのような人達も両親の死後に認知症になって発見される可能性は大いにありますよね。

(中川) どこまで対象者に含めていくかはわかりませんが、とりあえず緊急性の高い人達に市民後見人をつけようとしています。

 

◆「和の環」がひろげ隊こと

(菅) 「和の環」としての普段の活動はどのようなものですか。

(中川) 出前講座や相談会を実施しています。しかしこれをやっておけば大丈夫、という単純な解決策はありません。私達は「地域の中に、『助けを求められる人』を何人か作りましょう」と主張しています。

 「和の環」の和は、穏和とか和やかさをネットワークして、安心できる社会、見守っていく社会にしたいと思って命名しました。それだけでは分かりにくいと言われ、「わがまちで市民後見ひろげ隊」をサブタイトルにしました。成年後見を勉強した人たちで作った団体ですが、コミュニティづくりに貢献できるような組織にしたいと思っています。

(菅) 考え方を根付かせるための、草の根運動的な活動ですね。

(中川) 成年後見の考え方が広まれば、そのうち利用者が増加して、後見爆発なんて事態が起きるんじゃないかと思っています(笑)。

(菅) そうなれば和の環は大繁盛じゃないですか(笑)。しかし実際の問題として成年後見の報酬ってどのようになっているのですか。

(中川) 報酬付与は市民後見人になってから1年経過以降に管理している財産の中から請求できるとなっています。経費以外で月1~2万円といったところのようです。

(菅) 「和の環」の課題は何ですか。

(中川) 和の環では、成年後見をひとりで担うには重すぎるため、法人で受任したいと考えています。しかし横浜家裁は責任の所在が曖昧になる可能性を指摘し、法人受任に対し慎重な態度を示しています。東京・大阪の家裁の判断では法人受任はされているのですけどね。

(菅) 地域によって判断が違うというのもどうか、という感じがしますね。最後に、成年後見についてこれだけはみなさんに伝えておきたいという事はありますか。

(中川) どのタイミングで後見人をつけるかという問題です。多くの場合は、認知症の程度がかなり進んでしまってから後見人をつけています。今はまだ大丈夫と思っている時に、ライフプランニングをはじめ、後見人をつけるかどうかの準備を是非しておくべきだと思います。

(菅) 正直、まさか自分が、という気はします。しかし今のところ認知症はだれに起こるか分からない病ですからまさに備えあれば憂いなし、ということなのですね。本日はまだ全く具体的には考えていない将来について、少しでも考えるヒントを頂きました。ありがとうございました。

 

※成年後見制度についてのお問い合わせなどNPO法人和の環、及び中川美和子氏へのコンタクトは、弊社までご連絡下さい。

 

 

 

  

  

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