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NPO法人「育て上げ」ネット 工藤啓氏

NPO法人「育て上げ」ネット理事長 http://www.sodateage.net/index.html

 1977年生まれ。大学中退後、渡米し、現地の若者支援の現状を知る。米国ベルビューコミュニティーカレッジ卒業。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネット設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員/厚生労働省「キャリア・コンサルティング導入・展開事例検討委員会」委員/文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員/立川市教育委員会立川市学校評議員等を歴任するなど日本における若者支援の実践者として注目されている人材。

 著書 『「ニート」支援マニュアル』 『育て上げーワカモノの自立を支援する』 『16歳のための暮らしワークブックー生きていくのにかかるお金は月いくら?』

工藤啓氏ブログ http://bit.ly/bcte64

(聴き手:ビズデザイン株式会社 取締役・友田 景)

(掲載日:2010/8/10)

コミュニケーションから全てが始まる

(友田) 工藤さんが活動をしている中で感じている課題を教えてください。

(工藤) 何と言っても、対人関係に対する不安をなくす「コミュニケーション」ですね。私たちが支援している方々は、1対1、そして社会とのコミュニケーションを苦手にしている人が多いんです。

(友田) 私も今日ここに来るまでに、コンビニのセルフレジで買い物をした時にそれを感じました。買い物の時の「袋に入れますか」「お願いします」といったような会話もなくなっていくことはぞっとしますね。

工藤啓 写真1

(工藤) 自動販売機だらけの社会を想像すると怖いですね。私たちが支援している若者の中には、コンビニでの会話が唯一の人との接点だったという場合が結構あります。経済性だけで考えると社会的孤立の状況に陥るひとたちが増えるでしょう。

幸い、私の事務所の周りでは良いコミュニケーションが生まれています。コンビニ、中華料理店、クリーニング屋さん。そこで日常的な会話をしていると、自然に「育て上げ」ネットが何をしているのか、という話になります。そして、そこから不登校で困っている、お年寄りが家の草刈りができずに困っている、という情報が自然に入ってきます。我々のひとつの事業である「御用聞き事業」もそこから生まれました。

コミュニケーションはまず『量』を意識する

(友田) 工藤さんがコミュニケーションを取るときに意識されていることは何ありますか。

(工藤) やはり量ですね。質的効率性を追求してもダメですね。多くの場合、世間話、天気の話に情報としての価値は少ないと思いますが、実はそこに本質があると思っています。
若者支援分野では、行政や企業、NPOを含め、ネットワークが重要だとおっしゃる方が多いです。もちろん、それはその通りですが、私たちがコンタクトできた不登校の情報は、行政のネットワークではキャッチすることのできないものだと感じています。困っている人がどこにいるのか、という視点を持たなければ、組織をつないだだけのネットワークではこぼれ落ちてしまいます。私たちの存在意義の一つがそこにあると思っています。

友田さんはシンユウが何人いますか?私がその質問を受けたときにはしばらく考えて、5人くらいいると答えました。学校の先生の話によると最近の中学生は、シンユウを4タイプに分けていると。『信じられるか』、『心を開けるか』は彼らに取って違うらしいんです。それを携帯のフォルダで分けている。そしてそのフォルダの中で友達ランキングを作っている。みんながその順位を落ちないように友達付き合いをしている。人間関係がデジタルとして、「0」と「1」の世界観になっている。

工藤啓氏 写真2

(友田) まさしくデジタルネイティブ世代ですね。私たち30代以上にはちょっと想像しにくいですね。

(工藤) デジタル世代の友達付き合い方法を私たちも考えていかないといけない。デジタル、インターネットをうまく使えばコミュニケーションの質を上げることができると思っています。ただ、どうしても余裕/のりしろがなくなってしまいます。無駄がない、バッファーがないという言い方をする人もいますね。『NPO法人自立生活サポートセンター・もやい』の湯浅誠さんがおっしゃっている「ため」という言葉も近しい意味だと思います。私が、コミュニケーションについて悩みを持つ若者の相談を受けると、いくつかの基本的な動作/聞き手としての振る舞いを話します。すごく基本的なことですが、それだけでも仕事の面接を受ける時の自信になりますし、実際に受かる人も出てきています。

◆社会問題の解決ができれば、海外に売れるはず

(友田) 工藤さんの活動は、世間からの注目度も高く、マスコミで取り上げられることも多いと思いますが、最近はどういった問合せが多いですか。

(工藤) マスコミとは限りませんが、海外からの問合せが増えています。7月、8月に韓国とドイツからの視察が入っていますし、英語のメールや電話がどんどんきます。もっと英語を勉強しておけば良かったです(笑)。
日本は社会課題の先進国なんですね。少子高齢化もそうですし、引きこもりなどの若者問題もそうです。私はそれを解決する方法を確立できれば、海外に輸出できると考えています。課題解決型のNPOがそれをしても良いし、政治がそれを使ってくれても良いですし。

近々、メンバーの一人が、アジアのNGO・NPOサミットに招致を受けて参加する予定です。国単位の課題でもありますが、地域社会も、グローバル企業も同じ悩みや課題を抱いている、または、将来的に抱える可能性が高いと推測しています。

◆パーソナルネットワークから本当のソーシャルネットワークへ

(友田) 地域コミュニティーでの活動を進めていくうえで、効果的なインターネットの活用方法を教えて下さい。

(工藤) 発信と受信、両方の感度を高めることを意識しています。相手によって発信方法を変えること、そして日本国内はもちろん、海外にもアンテナを張って情報を集めることが重要です。自分たちの活動を発信することももちろん重要です。発信することで、世の中の皆さんからフィードバックを頂ける。本当はもっと良い方法があったのではないか、自分たちの知らないことが世界にはあるのではないか、と常に社会を見ながら考えることを意識しています。

(友田) インターネットで世界が広がったはずなのに、自分よりも若い人がこじんまりしていて、狭い世界にいる印象があります。考えや行動が自分だけに留まっていると感じることが多くあります。工藤さんのお考えはいかがでしょうか。

工藤啓 写真3

(工藤) まず、ITディバイドのことは考えないといけないでしょうね。若者は皆、パソコンが得意でインターネットを駆使しているというイメージを持っている方が多いと思いますが、私たちの調べでは、無業の15~39歳の若者にはパソコンに触ったことすらないひとが20%もいます。家庭事情で経験のない人も多いのが実情です。学校のパソコンもまだまだ数が足りません。インターネットとメールのみで、ワードやエクセル、パワーポイントを使ったことのない人も50%程度いました。

そして、ここからが先程の質問の答えですが、彼らにとってのインターネットが、ソーシャルネットワークではなく、パーソナルネットワークになっているという現実があります。デジタルネイティブ世代には、自分の趣味や所属を共有している自分たちの輪だけのためにインターネット等を利用しています。特にSNSなどをよく利用している人は、パーソナルな関係のみで使っている人も多いですね。なので、自分の仲間とその他の世界という枠組みになっていることがあります。『自分の外の世界』=『全世界【地球規模】』という考え方で構成されている場合があります。周囲の地域社会など中間の社会がすっぽり抜け落ちているんですね。身近なごく小さいコミュニティーで「俺たちが世界を変えてやる」と息巻いている現象が起きていますが、これだと世界が広がらないですね。

(友田) 工藤さんは自分を広げるために、インターネットをどのように使ってきましたか。

(工藤) 特別なことはしていませんよ。アメリカら帰国した時に、若者支援をしている人や専門家にメールを出したことはありました。何人かは、見ず知らずの、素性の分からない私と快く会ってくださいました。この時は、インターネットの力を実感しました。最低限のマナーは必要ですが、人づてではコンタクトを取れないひととも出会える可能性を広げてくれました。また、TwitterやBlogを活用して、自分の考えや組織の活動を発信していると、思ってもないような出会いがあったりしますね。


◆社会とのつながりや広がりを感じられる人を育てていきたい

(友田) 確かにインターネットを仲間内のパーソナルネットワークで終わらせていたら、そういう行動は生まれてこないですね。自分の子どもにも自分から行動できる人になって欲しいと願うのとともに、一番身に着けて欲しい力は変化への対応力なんですよね。

(工藤) 変化に対応すること、もっと贅沢を言えば、変化を作り出せる力を育てていくことが重要ですね。人は本来、自分の社会が広がっていくことは、楽しいはずです。出かける範囲が広がったり、出会う人の範囲が広がったり。育て上げネットの活動も、社会のつながりや広がりを感じられる、喜べる人を育てていくことに貢献できるようこれからも日々の活動に取り組んでいきます。

(友田) そうですね、子どもの頃は早く大人になりたかったのは、大人になればドンドン世界が広がって色んな事ができると感じていたからですね。今の子どもたちは、大人になることに希望が持てない社会になってしまっている気がします。大人になることに社会に出ていくことに希望が持てる社会を一緒に作っていきたいですね。本日はありがとうごいました。

工藤啓 友田景

 

  

  

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