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NPO法人トイボックス 代表理事 白井智子 白井智子 写真

 4〜8歳までを豪・シドニーで過ごした経験から日本の教育に違和感を持ち、一貫して教育現場に身を置いている。大学卒業後は松下政経塾に入塾し、教育改革をテーマに国内外の様々な教育現場で調査研究を行う。その結果、教育はシステムだけでなく現場の問題という結論に至り、学校設立を決意する。1999年4月、沖縄に開校したフリースクールの立ち上げに参加。二年半校長を務め教育界の注目を集める。

 現在は「スマイルファクトリー」代表として、あらゆる子どものいいところをみつけて伸ばすためのサポート活動を行いつつ、「NPO法人トイボックス」を設立、代表理事を務める。2003年9月、大阪府池田市より委託を受け、「池田市立山の家」にて不登校・いじめ・ひきこもり・非行など、様々な問題を抱えた子どものための新しい「がっこう」を開設。親も子も笑顔にするためのサポート活動を続けている。2007年4月、通信制高校と連携し、高校卒業資格がとれる「スマイルファクトリーハイスクール」を併設、校長を務める。

NPO法人トイボックス(スマイルファクトリー) http://www.smilefactory.jp/

(聴き手:ビズデザイン株式会社 取締役・友田 景)

(掲載日:2010/6/9)

 

◆社会起業家!?私はこの生き方しかできなかった。

(友田) 白井さんとは、7年程前からお付き合いをさせて頂いていると思いますが、振り返ってみると日本における「社会起業家」と呼ばれる走り的な存在に当たるのだと思います。そのことについては、どのように思われますか。

(白井) 自分では、「社会起業家」と呼ばれるのは、ありがたいことですが、申し訳なく、おこがましいと感じています。私は目の前の現場に一生懸命取り組むことしかできない。代表理事を務めるNPO法人トイボックスでも夫が事務局長をやっており、経営や行政との連携の面でずいぶんと助けてくれています。そのお陰で、私は現場に集中できています。なので、主人とセットで、「社会起業家」と呼ばれる方が実情に合っている気がしますね(笑)。

白井智子写真1枚目

(友田) 今でこそ「社会起業家」というような言葉が存在しますが、当時の日本社会においては、そのような道も確立されておらず、大学卒業後から直ぐにNPO的な働き方をされたことは、非常に特異な道を選ばれてきたと思いますが、その辺りについてご自身ではどのように思われますか。

(白井) そうですね、周囲から「もう少し儲かる生き方があったのでは」などと言われることもありますが、この生き方しかできなかったというのが本音です。大企業に内定も頂いていましたが、就職したとしてもきっと途中で悩み出したでしょうね。目の前に困った人がいるときに「どうすれば助けられるか」というシンプルなモチベーションでしか動けない。松下政経塾の研究テーマも自分の経験の中から一番関心のあった教育を選び、方々で研修させてもらいその延長線上で池田市からの委託を受けて学校・NPOを作りました。

私の中ではごく自然な流れでした。今後のことはわかりませんが、これからも生徒との繋がり・教育との繋がりは消えることはないと思います。これからもそういう人生しか生きられないと思います。

 あと、母親として自分の子どもを自分の責任でしっかりと育てたいという思いで、この10年間頑張ってきました。企業社会といわれる中で、ちゃんと女性が安心して子育てできる環境を作りたいと思って活動し続けて、ようやく仕事とプライベートが少しずつ重なってきた感じがします。

白井智子 写真2枚目

◆NPOはスタッフが一番の資源であり、資産。

友田 行政(池田市)との連携で事業をされていますが、組織の運営についてはどのように取り組まれているのでしょうか。特にスマイルファクトリーは、白井さんのスペシャリティーによって生まれたNPOですので、それを他のスタッフへ展開していくことは難しいのではと想像しています。

(白井) 確かに難しい問題だと感じています。私の1回目の出産・子育て時にどうしても休まなければいけない時期がありました。その時は、「山の家」が学校崩壊寸前!というSOSを受け、産後1ヶ月半で慌てて復帰しました。「あなたが先生なんだからしっかりしなさい!」と先生が生徒に怒られるような光景も見られたと聞いてきます。

そんな時期を乗り越えることによって、スタッフが随分成長しました。それまでは、スタッフができないことはついつい「いいよ、私がやっとくから」と言って、自分で抱え込んでしまうことが多かった。今は、任せられる部分は出来る限りスタッフに任せ、一人一人に大切な役割があると感じてもらえる環境づくりを心がけています。私自身もだいぶ落ち着いて状況を見られるようになりました。

友田 確かにNPOの組織運営は難しいですよね。企業と違いまだまだマネジメントとして確立されていない気がします。

(白井) そうですね。私自身も明確な答えを持っているわけではありませんが、スマイルファクトリーは、人と接することがメインの仕事になります。先日も他の理事とスタッフの昇給について話し合っていましたが、先程、友田さんがおっしゃられたように、スタッフには高い専門性が求められます。その高い専門性を活かしてこそ、行政と一緒に事業をやる価値があると思っています。しかし、どんどん不登校の子どもが増えて、ここの収入が上がればいいのかというと、そういうわけでないことは確かです。そういう意味では、生徒数や売上やなどの数値が全てでない。組織として今大事にしていることは、スタッフが安定してここで働きつづけてもらえるようにすることです。経済的にも精神的にも。スタッフの専門性と個性を発揮してもらわないと組織としての付加価値が生まれない。NPOはスタッフが一番の資源であり、資産ですね。だからやっぱり人が一番大事。一番お金が掛かるのも人件費ですしね。

白井智子 写真3枚目

◆不登校は本質的な問題ではない。その子が一生どうやって食べていくのかが本当の問題。

(友田) 確かに不登校の生徒が増えることは、社会として望ましいことではありませんよね。我々が子どもの頃には「発達障がい」などの言葉がなかった気がします。そのあたりの何らかの障がいが、子どもの不登校の原因になっていることが多いのでしょうか。

(白井) 確かに昔は「発達障がい」という言葉はありませんでしたよね。先日も、かなり学識の高い方から、「発達障がいって知恵遅れのことでしょ?」と聞かれて驚いたことがありました。
 この「山の家」にくる子どもの半分以上は何らかの形で障がいを持っていると見ています。普段の生活ではわからないことが多いのですが。不登校になる要因は、大きくコミュニケーションと学習の2つにわかれます。そこに影響が出てくると学校生活になじめなくなって、不登校になるケースが多いですね。
 でも中学生くらいになってくると、我々の頭も切り替わってくる。学校に行けるかどうかよりも、その子がどうやって人生を生きていくのか、自立してご飯を食べていくのかを真剣に考えて、取り組まないといけない。誤解をおそれずに言えば、学校は社会へ飛び出すための準備期間にすぎないわけですから。その子どもの長所を活かしてできる仕事、頑張れる目標を探し、それに適応できるだけの能力を伸ばしていくことを本人や保護者の方と一緒になって考えています。

◆課題解決型のNPOは、その存在がなくなることが本当のミッション。

友田 最後に白井さんの今後のビジョンなどについてお聞かせ下さい。

(白井) 現場で10年やってきて、やっぱり制度も重要だと痛感しています。国で政権交代が起こり、大阪では知事が代わり、松下政経塾の関係などもあり、随分と私にとっては政治が身近になってきました。その関係もあってなのか、以前よりも現場の意見を求められる機会も増えてきました。私自身は、政治家になることは考えていませんが、現場の声を制度に反映してもらえるような働き掛けをしたいと思っています。少しでも早く不登校で悩む子どもがいなくなるように制度面からもしっかりとアプローチしたいですね。何十年何百年かかるかわからないけれど、不登校の子どもがいなくなって、「山の家」が必要なくなることが理想です。

 あとは、「山の家」のスタッフも育ってきた中で、これまでの経験を活かして次のチャレンジも考える頃なのかなと感じています。勉強でもスポーツでも芸術でもなんでもいい、子どものいいところを伸ばしてやることが大事。そうやって自分の居場所を見つけ、自信を持つことができると人間どんどん伸びていくと実感しています。具体的に何も決まっているわけではないのですが、これからもそんなスタンスで教育に携わっていることだけは間違いないと思います。

(友田) 確かにNPOの存在意義は、社会問題の解決にあるわけですから、早くそのミッションを果たして、NPOが解散することが理想ですよね。そうすれば、困っている人がいなくなる社会になるわけですから。今後の取り組みにも期待しています。本日は、ありがとうございました。

白井智子・友田景 写真2
 

 

  

  

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