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 各種文化施設や博物館活動に関するコンセプトワーク並びに企画書の作成、マルチメディアの活用による地域資源の統合活性化に関する研究等に従事する。博物館の設立や地域活性化に関する各種委員ならびに日本ミュージアム・マネージメント学会(元/理事・近畿支部長)での活動や,京都ノートルダム女子大学にて博物館学芸員の養成に携わると共に、2007年に新設された鉄道博物館の展示設計・教育プログラムの監修に携わる。五島列島の活性化と松井守男画伯の日本での活動支援にも注力している。元・博物館学芸員。 現在、有限会社ミュージアム工学研究所代表、五島列島応援隊株式会社取締役並びに、観光地域経営フォーラムアドバイザー。

(聴き手:ビズデザイン株式会社 代表取締役・木村 乃)

(掲載日:2010/4/13)

 

◆ミュージアムマネジメントという基礎理論の大切さ

(木村) 桝井さんは「ミュージアム工学研究所」の創設者・代表でいらっしゃいますが、「ミュージアム工学」とは何ですか?

(桝井) まず、ミュージアムという言葉自体は、「博物館」の英訳ですが、概念的には博物館活動の本質である、実物や実体験と言ったリアリティを通した学びの構造体(Learning Structure)であり、情報を伝達する各種の媒体やシステムによって学習環境化した全体の事を、「ミュージアム」と表現しています。場所や空間に限定されることなく、自然や街,観光地なども、ある

ますいよしたか

テーマのもとに学習環境化させれば、「ミュージアム」であると考えています。そういった視点から、理論的・学際的に物事を考たり、企画・設計する手法の事を『ミュージアム工学』と呼んでいます。私の造語です。また、ミュージアムには本来、展示機能、調査研究機能、教育機能、地域社会の文化経営機能などのとても重要な機能が備わっています。しかし、現代の日本では多くの場合、資料が集まった単なる展示施設としてしか捉えていません。だから、そのマネジメントに対する問題意識も希薄です。科学的な基礎理論も確立されていません。ですから、自分自身の学芸員としての経験を活かして、本来のミュージアムの魅力や社会的な意義を実践の中で提示しながら基礎理論を確立していきたいと考えています。

◆地域の文化経営を促進するミュージアム◆

(木村) 展示機能、調査研究機能、教育機能というのはわかるような気がしますが、地域社会の文化経営機能とはどのような意味でしょうか。

(桝井) 国民生活に関する世論調査によると、昭和53〜55年にかけて、国民の意識が「物の豊かさ」から「心の豊かさ」へとシフトするという変化が起こりました。国民は、自らの生活の中に心の豊かさを実感できる生活を求めているということです。IT技術による情報化社会と言われていますが、これだけでは「心の豊かさ」は満たされません。「心の豊かさ」を満たすのはリアリティです。リアリティのある“モノ”や“コト”というのは触れれば、触れるほど楽しいものです。博物館では、お金を払う側のお客様から「ありがとう」と言っていただけます。お客様にそれだけの満足感があるからです。「心の豊かさ」の満足が人々の知的好奇心、知的欲求をさらに高めることになります。こうして社会が発展していくわけです。こうした好循環がある社会こそが文化的な社会であるということができます。ミュージアムにはその力があるのです。

(木村) 博物館や美術館などのミュージアムに好んで足を運ぶ人は、歴史や芸術に強い興味を持っている一部の人たちだけではないでしょうか。こうした現状を思うと、桝井さんのおっしゃるミュージアムの力は理想論に過ぎないのではないかと思ってしまいます。

(桝井) 現状はたしかにその通りです。そして、そのことがミュージアムが抱える最大の問題点なのです。この問題はいくつかの問題に分解できます。第一に、情報化,高学歴化、意識の変化などの社会の変容に対応する為のミュージアムに対するパラダイム変換の必要性です。科学技術やものづくりへの関心がこれほど高まっているにも関わらず、また、国民の意識が変化しているにもかかわらず、それらに充分対応しているとは言えないと感じています。第二に、学芸員の力量不足です。マネジメントという視点や社会とのつながりの中で、自らの専門性をどう活かすべきかという使命感が希薄です。このことがミュージアムの魅力を発揮できていない原因となっています。企業が次々と新技術を開発し、国民がそれを消費する。その繰り返しだけでは社会的発展は望めません。糧を得る部門と糧を消費する部門だけではなく、「温故知新」の姿勢で過去の技術や歴史を研究し、現代に価値あるものとして再生する部門が必要です。それがミュージアムの使命のひとつです。学芸員がその使命を果たせていない。だから、歴史や芸術に強い興味を持っている一部の人たちだけに喜ばれる施設になってしまっているのです。第三に、社会制度にも問題があります。博物館は「社会教育法」に基づく教育行政の中に位置づけられています。言い換えればその中に閉じ込められているわけです。地域社会の文化経営という大きな目標のもとに、教育はもちろんのこと、日常の暮らしや余暇活動、地域活動、事業活動など他分野の活動と有機的な連携を持つ存在に変えていくことが必要です。

◆ミュージアムは地域社会そのものの象徴◆

(木村) 現代社会では、もはやインターネットなしには生きていけません。桝井さんが提唱されているミュージアムの概念はそれと同じかそれ以上に、「ミュージアムなしには生きていけない」とも言うべきものなんですね。例えば、教育を語るとき必ず出てくる「学校・家庭・地域の連携」というキーワードがありますが、ミュージアムはそれらを繋ぐハブあるいはプラットフォームのような存在なのかなと思いました。

(桝井) そのような存在になりうるし、ならなければいけないと思っています。実は、ミュージアムの語源はギリシャ語で「ムゼイオン」と言います。これは「神殿」の意味です。政(まつりごと)も学術も暮らしの知恵も、そこを中心に発展してきたわけです。ミュージアムというのは地域社会そのものの象徴だったのです。日本的にいうと神社やお寺ということになるでしょうね。お寺や鎮守の森が地域文化の象徴であり、地域社会におけるあらゆる分野の歴史や技術を保存し伝承する機能を持ってきたと考えれば、ミュージアムの存在意義を理解してもらいやすいのではないでしょうか。言い換えれば、ミュージアムとは、地域社会の記憶装置であり、インキュベーション装置でもある訳です。

入場無料にすれば儲かるミュージアムになれる

(木村)しかし、それだけ大きな役割をミュージアムに発揮してもらうためには巨額の公費が必要になるのではないですか。現在の財政を前提としてそのようなことができるのでしょうか?

(桝井) 博物館等の入場料は受益者負担として徴収されています。これにはミュージアムが特定の人たちだけが利用する施設だという前提があります。私はこの前提こそがミュージアムの可能性を閉ざしてしまっている原因だと思っています。地方の時代が始まろうとしている今、その地域の文化的な特色にもなり得るミュージアムの活動が、もっと注目されても良いと思っています。そういう意味でもミュージアムは地域社会に不可欠なインフラです。公園や図書館と同じです。公園や図書館は入場料をとりません。ミュージアムも入場無料にして誰もがいつでも気軽に利用できるようにすれば、その価値はさらに高まります。無料にすれば、さらに財政を逼迫させることになる、と考える人が圧倒的に多いでしょうが、私はそうは思いません。入場無料にして来場者を増やすことができれば、社会インフラとしての価値も高まるし、文化経済学的にも十分に“儲かる施設”にもなれるのです。

(木村)単刀直入にうかがいます。どうすれば儲かるのですか。

ますいよしたか
ますいよしたか

(桝井)それは企業秘密です(笑)。入口で強制的に料金をとるのか、出口で気持ちよくお金を使ってもらうか。お客様にとってどちらがよいでしょうか。ミュージアムで体験したことを自宅や学校や職場や地域で追体験できるようなグッズをミュージアムショップで販売するのもその方法の一つです。また、展示・保存資料等の著作権を管理しているミュージアムであればこそ製作できるレアグッズも販売できます。これは一種の著作権ビジネスです。ただし、お客様にその気になってもらうためには、追体験したり、さらに知的欲求を刺激してくれるほど魅力的なミュージアムでなければなりません。観てよかったと思う映画であれば、映画館を出るときにパンフレットや関連グッズを買うでしょう?それと同じことです。

(木村)ミュージアムショップで儲ける。儲けるためには魅力的なミュージアムにしなくてはいけない。ミュージアム内部の魅力だけではなく、日頃からの地域社会とのつながりの中で、ミュージアム自身の存在価値を人々に認知してもらえるような工夫をしていればこそ実現可能な経営手法ですね。本日はどうもありがとうございました

【対談後記】

この対談を契機として、弊社ビズデザイン(株)と(有)ミュージアム工学研究所は、コンサルティング・パッケージ「ミュージアム・ソリューション」を共同で開発することになりました。全国の公立・公営の博物館・美術館を対象として、“儲かる”ミュージアム、“地域社会に根ざした”ミュージアムへの転換をサポートしてまいりたいと思っています。(木村 乃)

ますいよしたか
 

 

  

  

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