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【ビズワード】継承すべきは「わくわくを作る」心意気

投稿日時:2013年04月09日 14:59

菅裕子です。

少し古い話で恐縮ですが、昨年12月に明治大学で行われた公開講座に参加してきた。タイトルは「伝統的工芸品の経営とマーケティング」講師は佐賀県有田町で焼き物の卸商社を経営している金照堂代表取締役の金子真爾氏。会社社長として日々取り組まれている経営とマーケティングの話であったが、伝統工芸品である有田焼とマーケティングという現代的な手法の意外な組み合わせの話で印象に残ったので少しご紹介したい。

有田焼は日本で初めて作られた白磁(白く薄い素地)の焼き物で、作り始められて200年あまりは国内ではほぼ有田でしか作ることのできない高度な技術の製品であった。そのため超高級品として日本国内では将軍家や大名家への献上物とされたり、西洋へ輸出され17世紀のヨーロッパ貴族社会で珍重されていた。

近年の焼き物作りは工場で大量生産され、価格も下がって広く一般の人が使うことが出来る物になった。その中で付加価値の高い商品とは少しでも希少性のある物で、手作りの要素が大きいものは価格が高くなる。型で取って成型されたものでも絵付けが手書きであれば価格が高く、人気作家の一点ものなどはさらに高価なものとなる。需要と供給のバランスとブランド力が価格に反映する結果である。

金子氏が運営する卸商社の仕事は、生産者と消費者の間に立って、消費者のニーズを実現するためにどこの窯でどのようにつくってもらうかをプロデュースする仕事だそうだ。そのためには企画を立てて、どこでいくつ位売れそうか計画を立て、ロットを決めてメーカーへ発注する。企画のコンセプトを考えるには、例えばターゲットを特定し、実際に使用シーンを連想し、買う人々の興味を引くことを一生けん命考える。コンセプトが決まると、こういうニュアンスの製品であればどこの窯が得意そうかなどを考慮し、具体的に制作する商談をもちかける。ターゲッティング、ブランディングなどの商品戦略、供給量、価格戦略などのマーチャンダイジング、テレビや雑誌、ネットなどとのコラボ企画によるプロモーション戦略、などなど・・いわゆるマーケティングの技術を駆使し、いかにして顧客の心を躍らす商品を企画制作し、売っていくか、日々考え、実践している。商売をして行く以上、会社を経営している以上あたり前のことではあるが、失礼を承知で言うと、このようなマーケティング手法が伝統工芸の分野でもここまで考慮されているということにかなり新鮮な気持ちになった。

しかしそもそも金子氏の話では「有田は常に新しいことを取り入れてきたから400年の伝統が存続してきた」という。

1616年ごろより有田で作り始められた焼き物は、30年ほどで海外に輸出され始める。磁器の先進地、中国が輸出を停止していた時期とも重なり、30年ほどはヨーロッパに向けて順調に輸出を進めていたが、1683年に中国の輸出が再開すると厳しい価格競争に晒されることとなり、徐々に貿易は衰退していく。それでも輸出は1757年まで100年以上続いた。その間、有田では海外でのニーズに応えるべく、自分達は使わないであろう洋食器やその頃西洋で流行したティーセットなどが作られている。また国内においては佐賀鍋島藩の厳重な技術管理・専売の下、鍋島様式が将軍や大名に献上する品物として作られていた。デザインなどはしばらくすると飽きられてくるため、常に新しいものに取り組まれている。この時代に新しく作り出されたものは古伊万里、柿右衛門様式、鍋島様式などと呼ばれ、今では伝統的なものになっている。

マーケティングというと大量消費社会の出現と共に考えだされた概念のようであるが、江戸時代のエピソードにより昔から如何にしてブランドを保ちつつ、人々に受け入れられるものを作り、売っていくか、商売がなされる現場においては常に考えられてきたことだと分かる。現代においては商品の作られるスピード、流通のスピード、が格段に違っているし、それに伴って情報の種類も量も全く違うものになっているが、「常に新しいことを取り入れ、消費者にとって欲しいものを作り、提供し続ける」ということは何ら変わっていない。これまで作り続けてこられたのは、単に技術を継承しよい物を作ってきただけではなく、消費者に求められる物、受け入れられるものを作ったことによって成し遂げられている。また過去に作ったものの良さに固執することなく、常にわくわくするような新しいものを作り続けることが技術を継承しつつも、伝統を作り出すことに繋がっている。

食器が人々の生活に必要であり続ける限りこのわくわくするものを作り出す努力を続け、これからも続いてほしい産業、伝統文化である。

 

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